世界のベーシックインカム導入事例と現状

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1. ベーシックインカムとは

ベーシックインカム(Basic Income)とは、政府がすべての国民に対して、年齢、性別、所得、就労状況などに関係なく、最低限の生活を保障するために一定額の現金を定期的に支給する制度です。

ベーシックインカムの目的

  • 貧困削減: すべての人に最低限の生活費を確保

  • 経済の安定化: 景気変動の影響を受けにくくする

  • 社会保障制度の簡素化: 煩雑な手続きを減らす

2. 各国におけるベーシックインカム導入の現状

アメリカ合衆国

アラスカ州

アラスカ州では、1982年から「アラスカ永久基金配当金制度」が導入されており、州民全員に石油収入からの利益が配当されています。この制度は、石油価格の変動によって支給額が変動する という特徴を持ち、経済の安定性に影響を与えています。2022年の支給額は約1,200ドルで、過去最高額の年には2,000ドル以上支給されたこともありました。この制度により、アラスカ州の貧困率は他の州よりも低く抑えられています。

試験的導入事例

カリフォルニア州ストックトン市では、2019年から125人の住民に月500ドルを支給する実験が行われました。このプログラムでは、受給者の約40%が支給額を食費に使用し、他にも住宅費や医療費に充てられた ことが報告されています。また、フルタイム雇用の割合が12%増加 し、生活の安定が就業意欲を高める効果が示唆されました。

ドイツ

ドイツでは2014年からNPO主導でベーシックインカムの実験が行われています。2021年からの新たな試験では、120人に月1,200ユーロを支給し、経済的自由が人間の行動や心理にどのような影響を与えるかを検証 することを目的としています。初期の調査では、受給者の多くが教育やスキル向上のために資金を使用した ことが報告されています。

フィンランド

フィンランドでは2017年から2018年にかけて、2,000人の失業者に毎月560ユーロを支給する実験が行われました。この実験では、受給者のストレスが低下し、幸福度が向上した ことが統計的に示されました。一方で、就業率の向上には大きな影響を与えなかった という結果も出ており、労働市場への影響は限定的でした。

スペイン

2020年、スペイン政府は低所得世帯を対象にベーシックインカムを導入しました。しかし、受給資格の審査や申請手続きの遅れが課題となり、多くの対象者が適切に支給を受けられない状況が発生 しました。こうした問題を受け、カタルーニャ州では2022年から5,000人を対象に、無条件のベーシックインカムの試験運用を開始 し、よりシンプルな支給方式の効果を検証しています。

ブラジル

ブラジルでは2004年に「市民ベーシックインカム法」が成立し、2023年には対象者を2,080万世帯まで拡大する「新ボルサ・ファミリア」が開始されました。このプログラムでは、対象世帯の月収が一定額を下回る場合、家族構成に応じた支給額を提供 し、特に貧困層の生活の安定を目指しています。研究によると、このプログラムにより、子どもの就学率が向上し、栄養状態が改善される などの社会的な効果が見られています。

都市/地域 期間 支給額 対象者
アメリカ合衆国 アラスカ州 1982年~ 年間約1,200ドル(2022年) 全州民
アメリカ合衆国 ストックトン 2019年~2021年 月500ドル 18歳以上で世帯収入が中央値以下の市民125名
アメリカ合衆国 ロサンゼルス 2022年~2023年 月1,000ドル 貧困に苦しむ約3,200世帯
アメリカ合衆国 オースティン 2022年~2023年 月1,000ドル 低所得世帯135世帯
アメリカ合衆国 シカゴ 2021年~2022年 月500ドル 低所得世帯5,000世帯
ドイツ 2014年~ 抽選で選ばれた市民
ドイツ 2021年~ 月1,200ユーロ 120人
フィンランド 2017年~2018年 月560ユーロ 失業者2,000人
スペイン 全国 2020年~ 月462~1015ユーロ 一定の所得に満たない約85万世帯
スペイン カタルーニャ州 2022年~ 月900ユーロ(1人世帯)月1,350ユーロ(2人世帯) 5,000人
ブラジル 全国 2004年~ 平均約2万円(2023年~) 2,080万世帯(2023年~)
ブラジル マリカ市 2013年~ 貧困層
イラン 全国 2011年~2017年 平均年収の約29% 富裕層を除く国民

3. ベーシックインカムのメリットとデメリット

ベーシックインカムには、以下のようなメリットとデメリットが考えられます。

メリット

  • 貧困の改善: すべての国民に最低限の生活費を保障することで、貧困を削減できます。  
  • 格差の是正: 所得の低い人にも一定の収入を保障することで、貧富の差を縮小できます。  
  • 労働環境の改善: 生活のために劣悪な労働環境で働く必要がなくなり、労働環境の改善につながります。  
  • 多様な働き方の促進: 収入の不安が減ることで、起業やボランティア活動など、多様な働き方が可能になります。  
  • 社会保障制度の簡素化: 複雑な社会保障制度を簡素化し、行政コストを削減できます。  
  • 経済の安定化: 景気変動による収入の減少を和らげ、経済を安定化させる効果が期待できます。  

デメリット

  • 財源の確保: 巨額の財源が必要となり、増税や他の社会保障費の削減が必要になる可能性があります。  
  • 労働意欲の低下: 働く意欲が低下し、労働力不足や経済の停滞につながる可能性があります。  
  • インフレ: 需要が増加することで、物価上昇につながる可能性があります。  
  • モラルハザード: 働かずに生活する人が増える可能性があります。  
  • 既存の社会保障制度との調整: 既存の社会保障制度との整合性をどのように取るかが課題となります。

4. 専門家の意見と学術的研究

ベーシックインカムについては、多くの専門家や研究者が意見を表明し、学術的な研究も行われています。

例えば、ベネッセ教育情報サイトでは、ベーシックインカムによって労働意欲が減退する可能性がある一方、より自由に仕事を選べるようになり、労働意欲が向上するという意見もあると指摘しています。  

また、日本アクチュアリー会発行の「アクチュアリー」では、ベーシックインカム導入による労働意欲の低下について、賛成派と反対派の意見を紹介しています。 賛成派は、労働意欲はそれほど低下しない、あるいは多少減っても良いという意見で、反対派は、労働の質が低下し、社会が成り立たなくなるという意見です。  

さらに、行動経済学の分野では、実験室実験を通じてベーシックインカムが労働供給に与える影響を分析する研究が行われています。

  • 肯定派: 生活の安定が人々の創造性や生産性を高める

  • 否定派: 労働市場への影響が不透明であり、社会制度との調整が困難


5. 日本におけるベーシックインカム導入の可能性と課題

日本での課題

  • 財政負担が大きい: 巨額の予算が必要

  • 既存の社会保障制度との整合性: 年金制度との兼ね合い

可能性

  • 少子高齢化対策: 高齢者の生活保障に貢献

  • 働き方改革の推進: 労働の柔軟性を高める


6. 結論

ベーシックインカムは、世界各国で注目されている社会保障制度であり、貧困や格差の解決、労働市場の変革など、多くの可能性を秘めています。 しかし、導入には財源の確保や労働意欲の低下などの課題も存在します。

各国の導入事例や実験結果を見ると、ベーシックインカムは、貧困の削減や人々の幸福度向上に一定の効果があることが示唆されています。 一方で、雇用への影響は限定的であるという結果も出ています。 また、財源の確保や既存の社会保障制度との調整など、導入には多くの課題を克服する必要があります。

今後、AIや automation などの技術革新が進むにつれて、ベーシックインカムの必要性はさらに高まると考えられます。 各国の事例や実験結果を参考にしながら、それぞれの国の社会状況に合わせて、メリットとデメリットを慎重に検討していく必要があります。

ベーシックインカムの導入には綿密な計画が必要
各国の成功事例を参考に、日本独自の制度設計が求められる

今後の社会変化や技術進展に応じて、慎重に議論を進めていくことが重要です。

 

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